本文へスキップ

楽古文
大鏡 道隆の酒好き(二) 問題
      ただし、この殿、御酔ひのほどよりは、とくさむる


 ただし、この殿、御酔ひのほどよりは、とくさむることをぞせさせたまひし。御賀茂詣での日は、社頭にて三度の御かはらけ定まりて
参らするわざなるを、その御時には、禰宜・神主も心得て、大かはらけをぞ参らせしに、三度はさらなることにて、七、八度など召して、
上社に参りたまふ道にては、やがてのけざまに、後の方を御枕にて、不覚に大殿籠りぬ。一の大納言にては、この御堂ぞおはしまししかば、
御覧ずるに、夜に入りぬれば、御前の松の光にとほりて見ゆるに、御透影のおはしまさねば、あやしとおぼしめしけるに、参り着かせたまひて、
御車かき下ろしたれど、え知らせたまはず。いかにと思へど、御前どももえおどろかし申さで、ただ候ひ並めるに、入道殿降りさせたまへるに、
さてあるべきことならねば、轅の外ながら、高やかに「やや。」と御扇を鳴らしなどせさせたまへど、さらにおどろきたまはねば、近く寄りて、
表の御袴の裾を荒らかに引かせたまふ折ぞ、おどろかせたまひて、さる御用意はならはせたまへれば、御櫛・笄具したまへりける、取り出でて、
つくろひなどして、降りさせたまひけるに、いささかさりげなくて、清らかにてぞおはしましし。されば、さばかり酔ひなむ人は、その夜は
起き上がるべきかは。それに、この殿の御上戸は、よくおはしましける。
 その御心の、なほ終はりまでも忘れさせたまはざりけるにや、御病づきて失せたまひけるとき、西にかき向け奉りて、「念仏申させたまへ。」と、
人々の勧め奉りければ、「済時・朝光なんどもや、極楽にはあらむずらむ。」と仰せられけるこそ、あはれなれ。常に御心におぼしならひたる
ことなればにや。あの、地獄の鼎のはたに頭うちあてて、三宝の御名を思ひ出でけむ人のやうなることなりや。


問題の答は、反転させると見やすくなります。
1 次の語の本文中での読みを、現代仮名遣いで答えなさい。
 1)賀茂詣で         かももうで

 2)透影           すきかげ
 3)轅            ながえ
 4)袴の裾          はかまのすそ
 5)鼎            かなえ

2 「一の大納言にては、この御堂ぞおはしまししかば」について、
 1)「御堂」とは誰のことか。
   藤原道長
 2)「御堂」と同じ人物をさす語を抜き出しなさい。
   入道殿

3 「夜に入りぬれば、御前の松の光にとほりて見ゆるに、御透影のおはしまさねば」とはどういうことか、わかりやすく説明しなさい。
   夜になったので、前を行くお供の持つたいまつの光が牛車の簾越しに透けて見えるが、見えるはずの人影が見えないこと。

4 「なほ終はりまでも忘れさせたまはざりけるにや」の後に省略されていると考えられる語句を答えなさい。
   あらむ

5 下線部の「に」の説明として適切なものはどれか。記号で答えなさい。
 1)御酒の乱れさせたまひしなり。              (  )
 2)後の方を御枕にて、不覚大殿籠りぬ。           (  )
 3)御前の松の光にとほりて見ゆる、御透影のおはしまさねば、   (  )
 4)なほ終はりまでも忘れさせたまはざりけるや、         (  )

  ア 格助詞    イ 接続助詞    ウ 断定の助動詞の連用形    エ 完了の助動詞の連用形
  オ 形容動詞の連用形の活用語尾    カ 副詞の一部    

6 下線部の動作の主体(主語)は誰か、選んで記号で答えなさい。
 1)大かはらけをぞ参らせしに、三度はさらなることにて、七、八度など召して、     (  )
 2)やがてのけざまに、後の方を御枕にて、不覚に大殿籠りぬ。          (  )
 3)一の大納言にては、この御堂ぞおはしまししかば、御覧ずるに、         (  )
 4)御透影のおはしまさねば、あやしとおぼしめしけるに、             (  )
 5)参り着かせたまひて、御車かき下ろしたれど、え知らせたまはず。         (  )
 6)轅の外ながら、高やかに、「やや。」と御扇を鳴らしなどせさせたまへど、      (  )
 7)御櫛・笄具したまへりける取り出でて、つくろひなどして、降りさせたまひけるに、    (  )
 8)御病づきてうせたまひけるとき、西にかき向け奉りて、              (  )
 9)「済時・朝光なんどもや、極楽にはあらむずらむ。」と仰せられけるこそ、あはれなれ。 (  )

  ア 禰宜・神官    イ 藤原道隆    ウ 藤原道長    エ 道隆に仕える人々    オ 済時・朝光

7 下線部を単語に分けて文法的に説明しなさい。
 1)さる御用意はならはせたまへれば、        ならは/せ/たまへ/れ/ば
   ハ行四段活用動詞「ならふ」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用動詞「たまふ」の已然形
   +完了の助動詞「り」の已然形+接続助詞

 2)済時・朝光なんどもや、極楽にはあらむずらむ。    あら/むず/らむ
   ラ行変格活用動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「むず」の終止形+現在推量の助動詞「らむ」の連体形

8 下線部の語句の文中での意味を答えなさい。
 1)三度はさらなることにて、               いうまでもないこと
 2)やがてのけざまに、                 そのまま
 3)あやしとおぼしめしけるに、              妙だ/不審だ
 4)御櫛・笄具したまへりける取り出でて、          持っていらっしゃった
 5)されば、さばかり酔ひなむ人は、             そもそも
 6)それに、この殿の御上戸は、よくおはしける。         それなのに

9 下線部を現代語訳しなさい。
 1)後の方を御枕にて、不覚に大殿籠りぬ。         何もわからないほどにおやすみになった
 2)御車かき下ろしたれど、え知らせたまはず        お気づきになることができない
 3)いかにと思へど、御前どももえおどろかし申さで、      お起こし申し上げることができないで
 4)入道殿降りさせたまへるに、さてあるべきことならねば、    そのままにしてよいことではないので
 5)さらにおどろきたまはねば、近く寄りて、           まったく目をお覚ましにならないので
 6)さばかり酔ひなむ人は、その夜は起き上がるべきかは       起き上がることができるだろうか、いやできないだろう。

10 本文の内容と合致しないものを二つ選んで記号で答えなさい。
 ア 禰宜・神主は、道隆が酒好きであるとわかっていて、たくさん差し上げようとした。
 イ 道隆は酒を飲んだ神社で、不覚にも仰向けに倒れてしまった。
 ウ 道長は道隆を出迎えたが、道隆は酔いつぶれて降りてこず、道長はありえないこと、と不快に思った。
 エ 道隆は酔いつぶれたあとの対処には慣れていたので、身づくろいをして美しい姿で降りてきた。
 オ 作者は、酔ってもすぐに覚める道隆の酒の飲みぶりはすばらしいとほめている。
 カ 道隆は亡くなる間際まで酒のことを忘れず、済時・朝光のことも思っていた。
                         (  ・  )



大鏡 一覧

練習問題
 一覧



ナビゲーション