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楽古文
大鏡 雲林院の菩提講(二) 問題
      たれも少しよろしき者どもは、見おこせ、居寄りなどしけり


 たれも少しよろしき者どもは、見おこせ居寄りなどしけり。年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、「いで、いと興あること言ふ
老者たちかな。さらにこそ信ぜられね。」と言へば、翁二人見かはしてあざ笑ふ。繁樹と名のるがかたざまに見やりて、
「『いくつといふこと覚えず』と言ふめり。この翁どもは覚えたぶや。」と問へば、「さらにもあらず。一百九十歳にぞ、今年はなりはべりぬる。
されば、繁樹は百八十に及びてこそさぶらふらめど、やさしく申すなり。おのれは水尾の帝のおりおはします年の、正月の望の日
生まれてはべれば、十三代に会ひ奉りてはべるなり。けしうはさぶらはぬ年なりな。まことと人おぼさじ。されど、父が生学生に
使はれたいまつりて、下揩ネれども『都ほとり』といふことなれば、目を見たまへて、産衣に書き置きてはべりける、いまだはべり。
丙申の年にはべり。」と言ふも、げにと聞こゆ。


 かくて講師待つほどに、われも人も久しくつれづれなるに、この翁どもの言ふやう、「いで、さうざうしきに、いざたまへ。昔物語して、
このおはさふ人々に、さは、いにしへは、世はかくこそはべりけれと、聞かせ奉らむ。」と言ふめれば、いま一人、「しかしか、いと興あることなり。
いで覚えたまへ。時々さるべきことのさしいらへ、繁樹もうち覚えはべらむかし。」と言ひて、言はむ言はむと思へるけしきども、
いつしか聞かまほしく、おくゆかしき心地するに、そこらの人多かりしかど、ものはかばかしく耳とどむるもあらめど、人目に現れて、
この侍ぞ、よく聞かむと、あど打つめりし。


問題の答は、反転させると見やすくなります。
1 次の語の本文中での読みを、現代仮名遣いで答えなさい。
 1)翁            おきな

 2)望の日          もちのひ
 3)生学生          なまがくしょう
 4)下掾@          げろう
 5)丙申           ひのえさる

2 下線部の係助詞の結びの語について説明しなさい。
 1)さらにこそ信ぜられね。                   結びの語は「ね」。打消の助動詞「ず」の已然形
 2)さは、いにしへは、世はかくこそはべりけれと、聞かせ奉らむ。     結びの語は「けれ」。過去の助動詞「けり」の已然形

 3)人目に現れて、この侍、よく聞かむと、あど打つめりし。      結びの語は「し」。過去の助動詞「き」の連体形

3 下線部の「たまへ」について、例にならって説明しなさい。
 例)いで、さうざうしきに、いざたまへ        (尊敬の補助動詞「たまふ」の命令形)活用の種類は(ハ行四段活用 )
 1)父が…下揩ネれども…目を見たまへて、     (謙譲の補助動詞「たまふ」の連用形)活用の種類は(ハ行下二段活用
 2)いと興あることなり。いで覚えたまへ       (尊敬の補助動詞「たまふ」の命令形)活用の種類は(ハ行四段活用 

4 下線部の「に」の説明として適切なものはどれか。記号で答えなさい。
 1)侍めきたる者の、せち近く寄りて、               (  )
 2)繁樹と名のるがかたざま見やりて、              (  )
 3)丙申の年はべり。                     (  )
 4)われも人も久しくつれづれなる、この翁どもの言ふやう、      (  )

  ア 格助詞    イ 接続助詞    ウ 副詞の一部    エ 断定の助動詞の連用形    オ 完了の助動詞の連用形
  カ ナリ活用形容動詞の連用形の活用語尾

5 下線部の語句の文中での意味を答えなさい。
 1)年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、             ひたすらに
 2)「…。」と言へば、翁二人見かはしてあざ笑ふ               大声で笑う
 3)「…『都ほとり』といふことなれば、目を見たまへて              文字が読めまして
 4)「いで、さうざうしきに、いざたまへ。…」                  もの足りなくてさびしい ・ さあいらっしゃい
 5)そこらの人多かりしかど、ものはかばかしく耳とどむるもあらめど、         たくさんの ・ しっかりと

6 下線部を現代語訳しなさい。
 1)たれも、少しよろしき者どもは、見起こせ、居寄りなどしけり       少し身分や教養がある者たち
 2)「…さらにこそ信ぜられね。」                  全く信じられない
 3)「『いくつといふこと覚えず。』と言ふめり。この翁どもは覚えたぶや    こちらのご老人は覚えていらっしゃいますか
 4)さらにもあらず。一百九十歳にぞ、今年はなりはべりぬる       言うまでもない
 5)「…けしうはさぶらはぬ年なりな。まことと人おぼさじ             変ではございません年ですよ ・ お思いにならないだろう
 6)かくて講師待つほどに、われも人も久しくつれづれなるに         時間が長く手持ちぶさたなので
 7)いつしか聞かまほしく、おくゆかしき心地するに、               早く聞きたく、心ひかれる気持ち

7 「繁樹は百八十に及びてこそさぶらふらめど、やさしく申すなり」について
 1)「こそ」の結びの語について説明しなさい。
   「らむ」の已然形「らめ」で係り結びが成立するはずが、「らめ」に接続助詞「ど」がついて文が続いたことにより結びが流れている。

 2)「やさしく申すなり」とは、誰がどう言ったことに対してのことばか、「やさしく」の意味も含めて説明しなさい。
   繁樹が自分の年がいくつか覚えていないと言ったことに対して、つつましく(謙遜して)言うのだと世継が言ったことば。


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