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楽古文
宇治拾遺物語 児のそら寝 解説  
          今は昔、比叡の山に児ありけり

文法のポイント

 ポイント1 助動詞「む」
   助動詞「む」には、推量・意志・婉曲・仮定などの意味がある。文中に数ヵ所「む」が出てくる。
   例1:いざ、かいもちひせ
      (さあ、ぼたもちを作ろう :「む」は意志)
   例2:し出ださむを待ちて寝ざらも、 (作り上げるのを待って寝ないのも :「む」は婉曲)
   例3:寝ざらむも、わろかりな    (寝ないのもよくないにちがいない :「む」は推量)
   例4:ただ一度にいらへも、     (ただ一度で返事するとしたらそれも :「む」は仮定または婉曲)
   例5:いま一度呼ばれていらへ    (もう一度呼ばれて返答しよう :「む」は意志)
      例3の「なむ」については、ポイント2参照。


 ポイント2 「なむ」の訳し方
   「なむ」は前の語句とのつながりで文法的意味を判断する。(→「なむの識別」参照)
   例:し出ださむを待ちて寝ざらも、わろかりなむ
  
      この「なむ」は、形容詞「わろし」の連用形「わろかり」についているので、「な」が強意と判断できる。
      「む」は推量で、「わろかりなむ」は「きっとよくないだろう」「よくないにちがいない」と訳す。

 ポイント3 「もぞ」の訳し方
   「もぞ」は、困る気持ち、危惧する気持ちを表す。
   例1:待ちけるかともぞ思ふとて
  (待っていたのかと思うと困ると思って)
   例2:雨もぞ降る         (雨が降ったら困る)
      「もぞ」の「ぞ」は係助詞なので、文末の語は連体形になることにも注意。(係り結び)
      例1の「思ふ」、例2の「降る」は、連体形である。

 ポイント4 「な…そ」
   「な」は副詞。「そ」と呼応して、禁止を表す。「…してくれるな」「…しないでくれ」といった、頼むようなニュアンスがある。
   例:起こしたてまつり
  (お起こし申し上げるな)
      「な…そ」の間には動詞の連用形がはいる。

敬語のポイント

 ポイント1 尊敬表現
   僧の会話の中に、稚児に対する尊敬表現が用いられている。   

    例1:おどろかせたまへ    
    例2:寝入りたまひにけり   
      例1の「せ」は尊敬の助動詞「す」の連用形、「たまへ」は尊敬の補助動詞「たまふ」の命令形。僧から稚児への敬意を表す。
      例2の「たまひ」は尊敬の補助動詞「たまふ」の連用形。僧から稚児への敬意を表す。
      僧から稚児へ尊敬表現がつかわれていることから、稚児が身分の高い人の子弟であることがわかる。

 ポイント2 謙譲表現
   僧の会話の中に、稚児に対する謙譲表現が用いられている。   
   例:や、な起こしたてまつり

      「たてまつり」は、謙譲の補助動詞「たてまつる」の連用形。僧から稚児への敬意を表す。

   
敬語表現が文章の地の文に用いられているときは書き手(作者、筆者)からの敬意を表しており、
   
会話の中に用いられているときは発言者からの敬意を表している。

解釈のポイント

 ポイント1 擬態語
   文中の「ひしひし」は食べている音を表す擬態語である。「ひしめく」は系列語で、音をたてていることを表す動詞。

      なりゆきに耳をすましている稚児の心情が思いやられる描写となっている。

 ポイント2 話のおもしろみ
   ぼたもちは食べたいが、食い意地が張っているように思われるのもよくない、と遠慮深く行動した稚児であったが、
   もう一度起こしてくれと待っているのに、起こしてもらえず、このままでは食べられないと困ったあげく、
   呼ばれてからかなり時間がたって返事をした。僧たちも、稚児が実は起きていたと知り、笑うこと限りがなかった。


 
重要語 
    わろし   よくない
    さだめて  きっと
    おどろかす 起こす 目を覚まさせる  サ行四段活用動詞
    おどろく  目を覚ます はっと気づく カ行四段活用動詞
    いらふ   
返事をする 答える
    念ず    がまんする
    わびし   
つらい さびしい 情けない


宇治拾遺物語 児のそら寝 現代語訳

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